野生動物の専門家によるイノシシ対策のためのブログ。イノシシの防除から捕獲、止め刺し、解体まで、イノシシ被害を防ぐために役立つ情報を発信しています。

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イノシシ被害を防止するために実践できることを獣害対策の専門家が解説

イノシシ被害を防止するために実践できることを獣害対策の専門家が解説

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こんにちは鳥獣被害対策ドットコムの井上です。

今回の鳥獣害対策の知恵袋は「イノシシ被害を防止するために、私たちが実践できること」のお話しです。

イノシシ対策を行うには、まず、相手の本当の姿を知ることが大切です。
そして、相手のすべてを知った上で、自分の田畑に適した被害防止の対策を考えましょう。

今回のお話は、以下のとおり、5つの項目にまとめました。
少し長いですが、最後まで読んでくださいね。
最後まで読めば、イノシシ被害の対策と攻略法が分かります!

  1. イノシシを知ろう!
  2. イノシシから田畑を守ろう!
  3. 柵を効果的に設置しよう!
  4. 柵の維持メンテナンス
  5. イノシシを近づけない!

1)イノシシを知ろう!

イノシシと対峙するには、まずイノシシの形態や食性、繁殖などの特徴をしっかりと把握することが大切です。

また、イノシシは、基本的に臆病な動物ですが、その場所が安全であることを知ってしまうと、行動が大胆になることが知られています。

そのため、相手をしっかりと知った上で、対策を考えましょう!

以下に、イノシシの特徴について書き出しました。まずは相手の特徴を理解しましょう!
なお、詳細な生態的特徴は末尾に整理しましたので、詳しく知りたい方は、ご覧になってください。

〔形態〕

イノシシの体高は60~80cmで、藪や茂みに隠れています。体重は、大きなものでは150kgにもなると言われています。

イノシシ被害_形態
画像:イノシシの形態

〔分布〕

イノシシ被害分布
画像:イノシシ被害分布

西日本を中心に分布していますが、現在、北陸地方や東北地方への北上が指摘されており、東北地方を中心に北陸地方などでも分布の拡大が懸念されています(下図を参照してください)。

〔生息環境〕

広葉樹林や竹林、耕作放棄地などに生息しています。特に、身を隠すことのできる藪は格好の住処となるので要注意です!

〔食性〕

イノシシ被害_食性
画像:イノシシの食性

タケノコやドングリ(堅果類)、植物の根や茎、昆虫、両生類、爬虫類などを食べる雑食です。
畑に野菜くずなどを放置すると「エサ場」になってしまい、イノシシを呼び寄せてしまうので危険です!

〔繁殖〕

一般的に、年間に平均4.5頭を出産し、その半数が成獣に成長するとされています。

シカやサルと比較すると、増えやすいという特徴があります(捕獲のみの対策では被害を減らすことは難しいです)。

〔社会性〕

※基本的な社会(グループ)単位は、子供を連れた雌の母系的グループです。
このほか、単独の成獣雄、生殖に参加しない若齢の雄グループもあります。

動画:イノシシの社会性

〔行動特性〕

人間の居住地の近くでは、夜明けや夕方の薄暗い時間、夜間に行動します。
ただし、危険がないと分かると日中でも活動するようになります!

成獣は1m以上の跳躍力を持ちます。通常、防護柵などの障害物に対しては警戒しながら近づき、安全を確認します。

柵の上を飛び越えるよりも、下をくぐって通り抜けようとする特性があります。

幼獣(ウリボウ)は15cmの格子をくぐり抜けてしまい、成獣も高さ20cm程度の隙間であればくぐり抜けることができます。

鼻を使って土を掘り返し、ミミズや植物の根を食べます。また、鼻で50~60kgのモノを持ち上げることができます。

イノシシ被害_行動特性
画像:イノシシの行動特性

★イノシシ生態の参考ブログ:猪から田畑を守るために「猪の生態 8つの特徴」を理解しよう!

2)イノシシから田畑を守ろう!

一度でもイノシシに侵入された田や畑には、イノシシが次々と現れ、被害が拡大してしまいます。

それでは、イノシシからどのように田畑を守ればよいでしょうか?

それはズバリ、ワイヤーメッシュ柵や金属柵、電気柵、ネット柵などの『柵』を設置することが効果的です。

これらの種類の柵は、設置場所、施工(設置)のしやすさ、維持メンテナンスの手間、強度、耐久性などがそれぞれ異なります。

したがって、それぞれの耕作地にあった適切な柵を選ぶことがポイントとなります。

イノシシ被害対策用の「柵」を選ぶ際に重視される4つのポイントを整理しました。

  • 施工のしやすさ
  • 維持メンテナンスの手間(除草、破損などの点検)
  • 噛み切りや衝撃に対する強度
  • 耐久性

①ワイヤーメッシュ柵

ワイヤーメッシュ柵
  • 「ワイヤーメッシュ」は本来、建設資材として使われるコンクリート用の補強資材ですが、イノシシを防ぐための手軽な柵として設置されています。
  • ネット柵より強固で、噛み切られることはありません。価格も比較的安価で、施工(設置)も容易な金属柵です。

△:施工のしやすさ
◎:維持メンテナンスの手間
○:噛み切りや衝撃に対する強度
○:耐久性

②金属柵

金属柵
画像:金属柵設置イメージ
  • 「金属柵」は支柱が頑丈で、全体的に強固なつくりの柵です。
  • 金属製なので、ワイヤーメッシュ柵と同様に、動物に噛み切られることはあまりありません。
  • 維持メンテナンスの手間が少なく、頑丈なため、集落ごとに囲う場合や、市町村の山際や山の中に「長距離」にわたって設置するのに適しています。

△:施工のしやすさ
◎:維持メンテナンスの手間
◎:噛み切りや衝撃に対する強度
◎:耐久性

③電気柵

電気柵
画像:電気柵設置イメージ
  • 「電気柵」は軽い電気ショックで獣を驚かして、動物の侵入を防ぐ柵です。
  • 他の柵と比較して安価であり、かつ設置がとても簡単です。
  • 電気柵の仕組みは、電気柵本機⇒柵線⇒イノシシの鼻先(身体)⇒地面⇒アース⇒電気柵本機が繋がることで回路が作られて電気が流れます。
  • イノシシが柵線に触れると、それがスイッチとなり電気の通り道ができて、イノシシの体に電気が流れます。
  • 地面との隙間が大きく空かないように、地形にあわせて設置します。
  • ただし、柵線のワイヤーに雑草が触れたり、枝が引っかかったりすると、そこから漏電して柵全体の電圧が低下したり、ショートする原因となります。
  • 設置が簡単な分、こまめな点検とメンテナンスが必要となります。

◎:施工のしやすさ
△:維持メンテナンスの手間
○:噛み切りや衝撃に対する強度(※)
△:耐久性

※:動物は柵をみつけると、まず鼻先などを使って確かめます。電気柵はその際、柵線に触れた動物に電気が流れ、電気ショックで動物を田畑から遠ざける心理柵です。

<電気柵の注意事項>

電気柵しくみ
画像:電気柵感電の仕組み
  • 触っても、ビリッとするだけで人体に影響はありません。
  • 獣に対して軽い電気ショックを与えるだけです。触っても死傷したり気絶をしたりすることはありません。
  • 獣は何度か柵線を触ると、ビリッとする電気ショックを嫌がり、次第に柵に近づかなくなります。

<イノシシ用電気柵のワンポイント!>

  • 猪は柵をみると、飛び越えるよりも、まず柵の下をくぐり抜けようとして、柵を鼻先で触って確かめます。
  • また、猪の体には固い毛があるため、鼻先や肉球などにしか電流は流れません。
  • そのため、電線は猪の鼻先の高さにまず1段目を張り、潜り抜けないように、さらに下方向に何本か張る必要があります。
  • 柵線の高さ:イノシシは地面から20㎝、20㎝の2段張りが基本です(3段としている地域もあります)
  • 電気柵は設置したら、その日から24時間連続で通電させるようにして下さい(民家のまわりなど、日中にイノシシが出現しない場所ではその限りではありません)。
電気柵イノジジ2段張り
画像:電気柵イノシシ用2段

④ネット柵

ネット柵設置イメージ
画像:ネット柵設置イメージ
  • 田畑を囲う軽量でシンプルな柵から、工夫を凝らした頑丈な長距離設置用の柵まで、様々な種類の「ネット柵」があります。
  • 潜り抜けられたり、食い破られたりすることがあるので、柵の上部から地面に斜めに張るなど、ネットの裾がイノシシの足にからむように設置するのが効果的です。
  • 電気柵(電線型)よりは設置の手間がかかりますが、金属柵に比べると軽量、安価で、施工の手間はかかりません。

○:施工のしやすさ
○:維持メンテナンスの手間
△:噛み切りや衝撃に対する強度(※)
△:耐久性

このほか、トタン柵などがあります。
トタン柵は、目隠し効果で畑に近づけないようにします。安価で取り組みやすいですが、やや耐久性に劣ること、傾斜地や複雑な地形では効果が劣ることがあります。

3)柵を効果的に設置しよう!

イノシシ対策として、柵を設置しても効果が上がらない場合、柵の選び方やちょっとしたコツがうまくできていないことが原因となっていること多いです。

まずは、下図を参考に、きちんと設置できているか見直してみましょう!

●柵の下部に隙間がありませんか?

電気柵隙間
画像:柵のすきまから潜り込むイノシシ

イノシシは柵の下の隙間を探して、田畑に侵入しようとします。

電気柵隙間を塞ぐ
画像:柵下部の隙間を塞ぐ

隙間をふさぐことでイノシシは入れなくなります!

●農作地の近くが藪になっていませんか?

電気柵藪
画像:藪に身を潜めるイノシシ

猪は柵の外の茂みに隠れて、田畑の中に入る場所をじっくり探します。

電気柵藪なし
画像:藪がないとイノシシは不安

茂みがないと不安で、田畑の中に入る場所を探せません(柵効果大!)。

これらのこまめな、点検・管理がイノシシに入られないコツとなります!

4)柵の維持・管理

イノシシ対策で設置した柵は「一度設置すれば放置していてもずっと猪が防げる!!」残念ながらそんなに都合のよい柵はありません・・・

せっかくイノシシ対策のための柵を設置しても、その後の管理をしなければ、いつイノシ
シに侵入されるかわかりません。
イノシシの侵入を確実に防ぐには、柵の設置後も点検、補修などの維持管理が必要です。

<電気柵>

点検のポイント

  • 電圧は十分ですか?
  • 漏電していませんか?
  • 支柱のぐらつきや破損はありませんか?
  • アースやバッテリーのコードが切れていませんか?
  • 地際から侵入された形跡はありませんか?

維持管理のポイント

  • 漏電防止のための草刈りをしましょう
  • 藪の刈り払いで、イノシシが隠れられる場所をなくしましょう。

点検、維持管理をつづけるコツ

  • 「柵」の周囲を毎日の散歩コースにすると、こまめに点検できます。
  • 集落ぐるみで「柵」を設置しているのであれば、分担して管理をしましょう。

<ネット柵・ワイヤーメッシュ柵・金属柵>

点検のポイント

  • 隙間などからイノシシに突破されている箇所はありませんか?
  • 地際に穴、くぼみができていませんか?
  • 倒木などが引っ掛かって破損していませんか?
  • 支柱のぐらつきはありませんか?

5)イノシシを近づけない!

田畑や集落にイノシシが来る原因は、田畑の作物だけではありません!
それ以外の集落内にある「エサ」も原因になります。

安易に生ごみを置いたり、捨てたりしないようにしましょう。
また、放任果樹や稲刈り後に生えたヒコバエは排除してください。

イノシシは警戒心が強い動物です。
こまめに草刈りを実施し、柵のまわりの見通しをよくして、隠れる場所をなくすことが大切です。

田畑の作物以外の食べ物を減らすこと、猪が安心して身を隠せる場所をなくすことで、猪は集落に近づきにくくなります。

まずは、自分の田畑に適した『柵』を選び、設置をしたら、こまめに維持メンテナンスをすること。

また、同時にイノシシを田畑に近づけないために、餌となるような家庭ごみや野菜くず、ヒコバエを除去し、さらにこまめな草刈りを実施してイノシシの隠れ場所を無くすことが大切です。

【イノシシの詳しい生態など】

〔形態〕

  • ウシの仲間で、日本では大型の哺乳類に属します。
  • 体のサイズは地域で異なります。中国山地産のニホンイノシシ(雄成体)は、体重50~150kgですが、西表島産のリュウキュウイノシシ(雄成)体は体重40~50kgと小型になります。
  • また、雌は雄よりも小さく、体重にして雄の20~40%程度は軽いとされています。

〔分布〕

  • 日本では、ニホンイノシシは本州・四国・九州・淡路島、リュウキュウイノシシは奄美大島・徳之島・沖縄島・石垣島・西表島に分布します。
  • 雪に弱く、1冬に30cm以上積雪日数が70日を超える東北地方、北陸地方などには分布していないとされています。
  • ただし、近年では福島の山間部などの雪の多い地域でも生息が確認され始めており、近年その分布が徐々に北へ広がっています。
  • なお、海外では、北アフリカの一部からユーラシアに広く分布しており、外国でもイノシシ被害に悩まされている国があるそうです。

〔生息環境〕

  • 常緑広葉樹林、落葉広葉樹林、里山の二次林、低山帯とそれらの環境に隣接する水田、農耕地、平野部に広く分布します。

〔食性〕

  • 雑食性で、地表から地中にかけての各種の植物と、動物を掘り返して食べるのが特徴です。
  • 植物ではクズ、ヤマノイモ、ススキの根茎や各種の葉、果実、堅果など、動物では昆虫類、ミミズ、タニシ、カエル、ヘビなどを食べます。
  • 耕作放棄地のクズの根茎も好物です。

〔繁殖〕

  • 初産齢は1~2歳で、毎年出産します。年間2~7頭(平均4.5頭)を出産し、その半分程度は生きるとされます。
  • 出産期は春季~秋季で、通常1年に1回出産しますが、春と秋の年2回出産することもあります。

〔社会性〕

  • 成獣は、雌・雄ともに単独性の社会を形成しています。
  • 娘は母親とともに、母系的な群れを作りますが、雄は1~2歳で母親のもとを離れ、小さな群れを作るか、単独生活を行います。
  • 一夫多妻制で、雄は交尾期にのみ雌の群れに入ります。
  • 通常、なわばりは持ちません。複数の群れが同一地域を利用することも可能です。
  • しかし、成獣の雌同士の闘争や、成獣雌が他の群れの子供を襲う行動なども認められています。

その他、イノシシ対策として有効な方法は「大切な農地にイノシシを近寄らせない対策とは?」でもご紹介しています。

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この記事を書いた人

井上 剛

鳥獣被害対策 お役立ち情報

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